逃亡者 J・M・ディラード 書評

逃亡者

J・M・ディラード

原題 The Fugitive

 本作はハリソン・フォードやトミー・リー・ジョーンズ等によるハリウッド映画のノベライズ版であり、内容も映画に忠実ではありますが、細かな内面の描写等の小説ならではの描写が良い作品です。
 一般的にミステリーという捉え方はされていないかもしれませんが、今回は変則的な倒叙ミステリーとしてご紹介させていただきます。

 医師リチャード・キンブル(ハリソン・フォード)は、妻殺しの罪を着せられ逮捕されるも脱走。優秀な捜査官のジェラード(トミー・リー・ジョーンズ)との攻防(知能戦だけでなくときには肉弾戦もあり)を繰り広げながら、逃亡を続け、最終的に真実にたどり着くというあらすじです。

 倒叙ミステリーというものは、ものすごく簡単に説明しますと、「読者に犯人がわかっている状態で、敵役である探偵との心理戦を描く」(本当にざっくりした説明です)作品です。
 例えば、ドラマでいう刑事コロンボや古畑任三郎、漫画ですとデスノートもこの範疇に入ると思います。

 元がハリウッド映画ということもあり、「いや、それは無理があるだろ」とか「そんなことで裁判が維持できるのか」などという大味な部分はたくさんありますが、エンターテインメント作品だと割り切れば有りだと思います。
何より、翻訳も読みやすく、展開もわかりやすく、見せ場も多いので、初心者には優しい作品かと思います。
 本作はリチャード・キンブルが犯人ということで物語が進んでいきますが、徐々に真相がわかっていく、という流れなので、純粋な倒叙ミステリーではないのですが、捜査官側のキャラクターが立っており、心理戦も高度では無いながらもわかりやすい仕掛けで楽しめる内容に仕上がっています。
 適役の捜査官側のキャラクター性も一貫した設定で魅力的に描かれており、ジェラード捜査官を主役とした続編(「追跡者」)が作られる程です。

 倒叙モノにおきまして、追い詰める側の探偵役が魅力的で優秀であるというのは、主人公である犯人の心理を描いていくことが多い倒叙ミステリーにおいて非常に大事な要素ですので、今作も条件を満たしていると言えます。

 オチは今では驚かれることも難しくなっている種類のものですが、当時としてはミステリマニア以外には広く受け入れられる範疇かと思います。
謎はもちろんあるのですが、どちらかというと展開を楽しむ、サスペンス要素の比重が強いかなと個人的に感じます。
 しかしながら、緊迫感も楽しめながら、気軽に読める稀有な作品かと思います。

 映画も良いですが、内面描写も楽しめる小説版もオススメ致します。