九マイルは遠すぎる 書評
ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」ハヤカワ文庫
原題: The Nine Mile Walk
いわゆるアガサクリスティ、エラリークイーン、コナンドイル等よりは一般層への知名度という点では低いかもしれませんが、古典の名作であり短編集になります。
表題作は「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」という短い文章だけを頼りに推論を展開して殺人事件を暴き出す傑作です。
探偵は一切現場に行かず、その言葉から推測・論理的思考を展開し真相に達するというアームチェアーディテクティブと言われるジャンルの作品です。
それ以外も粒揃いの短編集で、古典の中では比較的翻訳も読みやすいので、他の有名どころよりは入りやすいかなと思います。
ただ、名作ではありますが、どちらかといいますとエラリー・クイーンを始めとするロジック色の強い系統の作品です。
爆発力のあるどんでん返しとは毛色の違う、オチの衝撃度というよりは過程とその流れと結末を楽しむ小説かなと思います。
こちらの記事はネタバレをせずにおすすめする方針で執筆しておりますので、仔細は避けますが、人間模様やドロドロとした動機、サスペンス性を重視するのではなく、ただただ頭脳明晰な名探偵がその知性をフル活用して謎を解いていく、そういった世界観の作品です。
結末の意外さありきの小説群とは違うロジカルミステリを是非堪能してくだされば幸いです。